人もすなる象徴詩といふものを

われもしてみむとてするなり

ヴァン・レルベルグ「黎明」

ゆうべ、物に怖じた優しい魂が発した声は、
鬱蒼たる葉叢の蔭で歌を歌っていたが、
傷つけられたかよわい優雅さを笑顔に包んで、
消え失せた魂もろとも去って行った。
その不思議な慄きは夜明けを駆け抜けた。
声は「少年時代」や「他所」や「過去」について語った。
それは亡霊の声だった。いまやその声は死に、
親しげな微風がそれをここ、
霧に包まれて荒れ果てたこの苑へともたらした、
遠く、浜辺の砂に絶え入るときの
海の波のやさしいささやきにも似て……
青い黎明になおも伝わりたゆたう
聖なる夜の思い出よ……
より美しい日々とより幸福な時との谺よ……
歌ですらない、言葉なき声、
何も語らず、何も知らないけれども慰安をもたらしてくれる声……
深々とした麦のそよぎや水のたゆたい、
沈黙を乱しもせず、休息を破ることもない、
ありとしもない、かそけき声、
それは薔薇をふるわすこともなく、
鳥を目ざませることもない。けれどもその声のうちには
もはや見るすべのないかつての世界が魔法にかけられたように息づいている。
芳香の入り混じったその軽い息吹のうちには、
とうに死んでしまった心が息を通わせていて、
気高く穏やかな不滅の顔が、
花束や椰子の葉ごしに微笑みかける。
ひとがその声のうちに聞き取るのは、
「欲望」の翼や熱い唇の発するうなりや開花や死滅、
また森の暗がりで愛神がささやく
悦ばしくも浄らかな、あまい言葉。
その黄金の響きはいまなお天空に充ちている。
その玄妙な歌声に耳を傾けよ。
そこに沁み入る夢想は魂に影を残し、
薄暗がりで目をさました至福が、
ためらいつつ蒼ざめる。見たまえ、はやすでに未来だ、
悠久の樹々の梢は青みを帯びてきた、
甘く淡い大気のうちに星くずが溶けてゆく、
新しい一日が世界の壮麗さのうちに立ち昇る。
遠いゆうべのふしぎな谺がまだ揺曳するこの官能的な朝、
少女たちは戸外に出る。
嬉しげに、けれども不安に身をふるわせつつ、
爪先立ってしとやかに、身じろぎもせず指を口にあて、
口づけを抑えるように甘い吐息を抑えつつ、
少女らはみなその声に耳を傾ける、
彼女らは聴く、朝の花々のうちに、
彼女らの娘らしい魂の驚きのうちに、その声が息絶えるのを、
また花々がほころび、ふるえ、目覚めてゆくなか、
気高く威信にみちた声が、これを最後と朝焼けに歌を歌いつつ、
笑みえみと、また萎えなえと、
彼女らの夢のように消え去ってゆくのを。

子守女に贈る歌(ヴァン・レルベルグ)

私がおまえのことで覚えているのはごく簡単な讃美歌だけだ。
よき天使の翼のように、
玩具の思い出とともにある子守女よ、
大切な魂よ、いまここで、
松の木の下の墓の前に
寂しく腰をおろし、
遠く地平線の彼方に美しい秋の夕陽を見、
美しい一日の終りにおまえのことを想うとき、
おまえは天国にあって、慈愛と微笑と
祝祭との歌詞を覚えているだろうか、
おまえが優しい腕で私の頭を抱いて
歌ってくれたあの歌詞を。
大切な魂よ、聴いておくれ、
おまえが私に歌ってくれた歌を聴いておくれ。
私はそれをいまでもぜんぶ覚えている。
それは悦ばしい歌で、いつもうっとりするような魅力がある、
そして、かつて私の揺籃を揺すってくれたように、
今度はこの歌がおまえの永遠の休息をやさしく揺するのだ。

ヴァン・レルベルグ「イン・メモリアム」

エフライム・ミカエルの墓前に


心をひとつにして膝まづき
祈りを捧げる使徒のように、
われらはここに居並ぶ、
きみはそのさなかに居たまう。

ああ、静けさ……われらの歌の蔭より
ひとつの声が立ち昇り、
われらのあいだに夢のように、
香のなかの燠のように拡がる。

その声は山々の
白い頂を統べる光のよう、
谷間の薔薇はことごとく
われらの祈りに混じりあう。

その声はわれらをひとつにし、
その波と響きとは
われらの死すべき声を
黄金の不壊に包みこむ。

ヴァン・レルベルグ「墓碑銘」

薔薇や木蔦に交じって
百合が生い出づる大理石の下に、
かつて愛と光そのものだった
ひとりの少女が眠っている。

夜になると、天使がきて
額の上に歓喜の印をおき、
安らかな死が彼女を
永遠の若さのうちに眠らせる。

だから、嘆くことはない、
行きたまえ、旅人よ、人生は短い、
涙は死者を悲しませるのみ、
彼女をして夢みるがまま眠らしめよ。

ヴァン・レルベルグ「死」

ああ、その手はなんと小さく白いことか。
まるでうなだれた花のようだ……

彼女は憩い、眠っている。
彼女は死に触れたのだ。

その身はうつろで、すっかり軽い、
その身はこの世での役目を了えた。

どうぞ彼女を連れて行ってください、主よ、
彼女は幸福に触れたのです……

その顔に月光が輝く、
目には雲が群がる。

なかば開いた口が優しい科をつくる
見えない盃で飲むかのように。

鎌に刈られた麦穂のような
その長い髪の毛をそっと寝かしてやる。

ゆっくりと、音もなく、ひそやかに、
甘い夜へ扉が開く……