あやしき香
おゝ也香よ也香
くゆりかに立ちのぼり
沁みては通る
おおどかに
乙女さび
ほのかに乳(チ)と血をまじえたる
その妖艶なるたたずまい
供犠
太陽神に生贄を捧げる男が丘に登ってきた。
寄る年波に喉をぜいぜい鳴らし
足元あやしくよろぼいながら、
見ればどこかに傷を負っているのか、
衣の下から血がしたたり落ちている。
丘には木がまばらに生え、
小さい泉がさらさらと地を潤していた。
杖をたよりにここまで来たが、
男はすでに疲れ果てていた。
男はこれまで屠ってきた何人もの若者を思った。
そして自分にはもう神へ供物を捧げる力がないと悟った。
男はそのまま聖壇の上につっぷした。
そこは、男が数々の供犠を行った場所であった。
もうこうなってはわが身を神に捧げるしかない。
神は男の行為を嘉されるであろうか。
男はそんなことをぼんやりと考えた、
照りつける日射しにぎらぎら光る血だまりを見つめながら。
蜂の巣
こちたき時を刻む漏刻、
その絶えだえの響きが
有漏の身に沁みとおる。
梵鐘のように、
谺のように、
妙(タエ)にしみらにつきまとう。
そのうねりは蜜蜂のうなりのごとく、
群をなしてあたりをおおい、
侵食を一面に繰り広げつつ
いつしかそれを蜂の巣に変えてしまう。
日が昇り、日が沈み、
量り知れぬ時を経て
すでに蜂の去った果樹園には
干からびた土色の蜂の巣が
吹く風に空しく首を揺するばかり。