人もすなる象徴詩といふものを

われもしてみむとてするなり

あらわれ


まっかな唇に薄い布をあてがって
私をやさしいまなざしで見つめる

こころ弱くも悲哀に溺れる私に
不意にあらわれた仄かなまぼろし

みよ子さんと名前を呼べばすぐに会えそうな気がするのに
あなたと私とのあいだには
どうにもならない時空の隔たりが横たわっている

さやさやと鳴るすずしのような
銀色をしたあなたの声を
いましみじみと思い出す

のらくら者のらくちん境


温かいもの
親しげなものを求めて
こころの内部(オク)へ
ひたすら内部(オク)へと
もぐりこんでゆく
ひとつの意志

この乳白色の絶対境
ふうわりと柔かい砦に立てこもって
思うさま手足をのばし
のんべんだらりとする心地よさ

のらくら者よ
おまえの王国がそこにあるのなら
何を好んで別天地を求めよう

どこまでも懶惰な夢を追ってゆけ
のらくら者よ
時の流れを遡行して
嬰児の記憶を取り戻せ

羞明


明るさが私はこわい、
白さは私をおびやかす、
なぜならあの黒い星がよく見えるから。

消えてはまた現れる
あの気まぐれな星は、
流星か、恒星か、
はたまた小惑星か、
そもそも実在するものか、
それとも現象にすぎないのか、
吉祥か、凶兆か、
それはだれにもわからない。

実在にまれ現象にまれ
ただわが眼の外に逃れ出よ、
憂鬱の黒い星よ、
わが羞明の彼方に遁れ去れ。