人もすなる象徴詩といふものを

われもしてみむとてするなり

COINCIDENTIA OPPOSITORUM


殺す 集める 耕す
それが男

だます 飾る 紡ぐ
それが女

男と女とは互いに対蹠人
何から何まで正反対なのだ

けれどもこの世は男女を焦点とする楕円
離れて行けば楕円が広がる
歩み寄れば円に近づく

まどかなるものを実現するために
相反するものの一致に努めよう

わが快楽


俗塵に塗れるはわがこよなき愉しみ
さあ如何に思召す
したり顔した貴顕紳士の殿ばらよ
諸君の目には布衣匹夫とも映ろう私が
よしのずいから覗くのは
いづくんぞ知らん 壺中の天だ

しかしそれもそう長くはつづくまい
私にはべつの楽しみが待っている

眠りの底へ 眠りの果てへ
真一文字に飛び込みたい
そうして目明かぬ嬰児のごとく
時の胎内に抱かれていたい

そのとき私ははじめて全一者となる

植物化石


蘆木(ロボク)、鱗木(リンボク)、封印木(フウインボク)と唱えつつ、
ゆくりなくも太古の神樹を想う。

宇宙の霊樹ユグドラシル
蛇の纏いつく善悪の樹、
天使に護られた生命の樹

生命は海と溶け合う太陽から生れ、
繁茂する樹々によって養われた。
太陽と海とは化してわれらの骨となり、
樹々は変じてわれらの肉となった。

かつての普遍の大樹の姿を
欠片のうちにほのめかしつつ、
いしくもわが眼前に居並ぶは
蘆木、鱗木、封印木の化石たち。

小さな願い


大好きな人なのに
おまえに会うのが私はこわい

おまえの前であらわになる
赤裸の心がおぞましい

いつも若やいだおまえの前で
わが身の老いが恥ずかしい

大好きな人よ
私を私以外のものに変えてください

雨の街


街路をひたひたと濡らす雨、
小さくさざなみ立つ水の流れに
あやうい調和を加えながら
灰白色の街は幻のように眼前にあらわれる。

これが私の愛したあの街だろうか?
そんな思いを無に帰するかのように
街はどこまでもよそよそしく
あるがままの姿を私に示すのみ。

私は蹠に石畳の硬さを感じながら
雨ふる街をとぼとぼと歩く。
すでに人気のたえた商店街では
どの店もひっそりと戸を閉めている。

一軒だけ、ぽつんと灯のともった店があった。
水を打った床には血が流れ、
まっくろな魚が何匹もバケツに泳がしてある。
店内はひっそりと静まりかえっている。

その店の前に立ち止まって中をのぞく。
たちまち夜の闇が四方から闖入してくる。
硝子戸の向うに映った何者かの姿も
いまや黒々とした影法師にすぎない。

深々としたメランコリアがあたりを包み込み、
見慣れたものをぶきみなものに変えてゆく。
このやりきれない疎外感はどこからくるのか?
雨の街はいつか私を異郷へ連れ出していたのだった。