COINCIDENTIA OPPOSITORUM
殺す 集める 耕す
それが男
だます 飾る 紡ぐ
それが女
男と女とは互いに対蹠人
何から何まで正反対なのだ
けれどもこの世は男女を焦点とする楕円
離れて行けば楕円が広がる
歩み寄れば円に近づく
まどかなるものを実現するために
相反するものの一致に努めよう
わが快楽
俗塵に塗れるはわがこよなき愉しみ
さあ如何に思召す
したり顔した貴顕紳士の殿ばらよ
諸君の目には布衣匹夫とも映ろう私が
よしのずいから覗くのは
いづくんぞ知らん 壺中の天だ
しかしそれもそう長くはつづくまい
私にはべつの楽しみが待っている
眠りの底へ 眠りの果てへ
真一文字に飛び込みたい
そうして目明かぬ嬰児のごとく
時の胎内に抱かれていたい
そのとき私ははじめて全一者となる
小さな願い
大好きな人なのに
おまえに会うのが私はこわい
おまえの前であらわになる
赤裸の心がおぞましい
いつも若やいだおまえの前で
わが身の老いが恥ずかしい
大好きな人よ
私を私以外のものに変えてください
雨の街
街路をひたひたと濡らす雨、
小さくさざなみ立つ水の流れに
あやうい調和を加えながら
灰白色の街は幻のように眼前にあらわれる。
これが私の愛したあの街だろうか?
そんな思いを無に帰するかのように
街はどこまでもよそよそしく
あるがままの姿を私に示すのみ。
私は蹠に石畳の硬さを感じながら
雨ふる街をとぼとぼと歩く。
すでに人気のたえた商店街では
どの店もひっそりと戸を閉めている。
一軒だけ、ぽつんと灯のともった店があった。
水を打った床には血が流れ、
まっくろな魚が何匹もバケツに泳がしてある。
店内はひっそりと静まりかえっている。
その店の前に立ち止まって中をのぞく。
たちまち夜の闇が四方から闖入してくる。
硝子戸の向うに映った何者かの姿も
いまや黒々とした影法師にすぎない。
深々としたメランコリアがあたりを包み込み、
見慣れたものをぶきみなものに変えてゆく。
このやりきれない疎外感はどこからくるのか?
雨の街はいつか私を異郷へ連れ出していたのだった。