ネルヴァル頌
海の彼方に咲くという
トレミエールの薔薇を見たのは
ボン・ジェラールただ一人
イスパハンの薔薇が薔薇でないのと同様
トレミエールの薔薇も薔薇ではない
薔薇でないものを薔薇と呼ぶ
そこにジェラールの偉さがあるんじゃないか
万巻の書を読破しながら
一冊の本ももたぬ浮浪者ぐらし
隠秘哲学の奥義を極める一方で
魚河岸の女房ほどの分別もなかった男
象徴派がこの世に現れるに先立って
すでに最高の象徴詩を書き了えていた男
ジェラール・ド・ネルヴァルよ
私はあなたに心からなる尊敬と
嫉妬に近い愛情とを抱いている