人もすなる象徴詩といふものを

われもしてみむとてするなり

雨の街


街路をひたひたと濡らす雨、
小さくさざなみ立つ水の流れに
あやうい調和を加えながら
灰白色の街は幻のように眼前にあらわれる。

これが私の愛したあの街だろうか?
そんな思いを無に帰するかのように
街はどこまでもよそよそしく
あるがままの姿を私に示すのみ。

私は蹠に石畳の硬さを感じながら
雨ふる街をとぼとぼと歩く。
すでに人気のたえた商店街では
どの店もひっそりと戸を閉めている。

一軒だけ、ぽつんと灯のともった店があった。
水を打った床には血が流れ、
まっくろな魚が何匹もバケツに泳がしてある。
店内はひっそりと静まりかえっている。

その店の前に立ち止まって中をのぞく。
たちまち夜の闇が四方から闖入してくる。
硝子戸の向うに映った何者かの姿も
いまや黒々とした影法師にすぎない。

深々としたメランコリアがあたりを包み込み、
見慣れたものをぶきみなものに変えてゆく。
このやりきれない疎外感はどこからくるのか?
雨の街はいつか私を異郷へ連れ出していたのだった。