魑魅魍魎の歌
魑よ、魅よ、魍よ、魎よ、
どんなに珍奇な植物よりも、
どんなに綺麗な動物よりも、
おまえたちのほうが私は好きだ。
あるとしもないあやかしよ、
ひとのえ知らぬおよずれよ。
魑、火の娘、樹から生まれたドリアッド、
髪をなびかせ山野を跋渉し、
火に棲む蜥蜴を使い物にするおまえは
痴笑いを浮べた牧羊神のこよなき伴侶。
魅、水の精、乙女さびたるナイアッド、
瘴気漂う隠沼に裸身をさらし、
水波女と妍を競うおまえの髪に
滴る水しぶきはさながらに阿古屋の珠。
魍、木石の精、陽炎に立つオレアッド、
耳長く目赤く、姿かたちは童女のごとく、
地中に住む侏儒たちと手に手を取って
人間の赤ん坊をあやしにやってくる。
魎、海の微風、波に浮ぶネレイッド、
おまえがのけざまに結ぶ夢は蜃気楼、
そこには東邦の壮麗が彷彿と現じ、
ジルフェの歌はそのまま光明となる。
魑よ、魅よ、魍よ、魎よ、
どんなに可憐な妖精よりも
どんなに立派な女神よりも
おまえたちのほうが私は好きだ、
そこはかとないおぼめきよ、
ひとの気をひくまどわしよ。