人もすなる象徴詩といふものを

われもしてみむとてするなり

わが快楽

俗塵に塗れるはわがこよなき愉しみ
さあ如何に思召す
したり顔した貴顕紳士の殿ばらよ
諸君の目には布衣匹夫とも映ろう私が
よしのずいから覗くのは
いづくんぞ知らん 壺中の天だ

しかしそれもそう長くはつづくまい
私にはべつの楽しみが待っている

眠りの底へ 眠りの果てへ
真一文字に飛び込みたい
そうして目明かぬ嬰児のごとく
時の胎内に抱かれていたい

そのとき私ははじめて全一者となる

植物化石

蘆木(ロボク)、鱗木(リンボク)、封印木(フウインボク)と唱えつつ、
ゆくりなくも太古の神樹を想う。

宇宙の霊樹ユグドラシル
蛇の纏いつく善悪の樹、
天使に護られた生命の樹

生命は海と溶け合う太陽から生れ、
繁茂する樹々によって養われた。
太陽と海とは化してわれらの骨となり、
樹々は変じてわれらの肉となった。

かつての普遍の大樹の姿を
欠片のうちにほのめかしつつ、
いしくもわが眼前に居並ぶは
蘆木、鱗木、封印木の化石たち。

雨の街

街路をひたひたと濡らす雨、
小さくさざなみ立つ水の流れに
あやうい調和を加えながら
灰白色の街は幻のように眼前にあらわれる。

これが私の愛したあの街だろうか?
そんな思いを無に帰するかのように
街はどこまでもよそよそしく
あるがままの姿を私に示すのみ。

私は蹠に石畳の硬さを感じながら
雨ふる街をとぼとぼと歩く。
すでに人気のたえた商店街では
どの店もひっそりと戸を閉めている。

一軒だけ、ぽつんと灯のともった店があった。
水を打った床には血が流れ、
まっくろな魚が何匹もバケツに泳がしてある。
店内はひっそりと静まりかえっている。

その店の前に立ち止まって中をのぞく。
たちまち夜の闇が四方から闖入してくる。
硝子戸の向うに映った何者かの姿も
いまや黒々とした影法師にすぎない。

深々としたメランコリアがあたりを包み込み、
見慣れたものをぶきみなものに変えてゆく。
このやりきれない疎外感はどこからくるのか?
雨の街はいつか私を異郷へ連れ出していたのだった。

ネルヴァル頌

海の彼方に咲くという
トレミエールの薔薇を見たのは
ボン・ジェラールただ一人

イスパハンの薔薇が薔薇でないのと同様
トレミエールの薔薇も薔薇ではない
薔薇でないものを薔薇と呼ぶ
そこにジェラールの偉さがあるんじゃないか

万巻の書を読破しながら
一冊の本ももたぬ浮浪者ぐらし

隠秘哲学の奥義を極める一方で
魚河岸の女房ほどの分別もなかった男

象徴派がこの世に現れるに先立って
すでに最高の象徴詩を書き了えていた男

ジェラール・ド・ネルヴァル
私はあなたに心からなる尊敬と
嫉妬に近い愛情とを抱いている