人もすなる象徴詩といふものを

われもしてみむとてするなり

2022-01-01から1年間の記事一覧

ヴァン・レルベルグ「祈願」

親愛なる善の聖霊、美の聖霊よ、 静寂のなかで実在の上に そっと息を吹きかけ、 心中に気ままに憩わせている 素朴な叡智と信念とをもたらすものよ。 もし私の魂がきみの存在に背馳しないとすれば、 どうして私が悲しげな目をして過ちを犯すことなどありえた…

ヴァン・レルベルグ「選ばれた者」

神々の幻影の路を その男は歩いて行く、 もしすべてが幻影であるとすればだが。 その男が夢みるのは極上の夢、 人を信じ己を信じ、 おのが熱狂に一心に入れ揚げ、 虚しき事物よりもさらに虚しく、 あたかも存在しない人間であるかのように、 足下の影でもっ…

ヴァン・レルベルグ「神秘の薔薇の樹」

幾千もの薔薇をつけた、 美しい楽園の薔薇の樹よ、 芳香に包まれて輝き、 光のなかに憩う樹よ、誇りかな薔薇をつけた、 閉ざされた苑の美しい薔薇の樹よ、 そなたに親密な木蔭がつくる網の目を 下草の上に拡げるものよ、そなたのまわりには、 あのつつましや…

ヴァン・レルベルグ「気軽な心」

さながら麦畑を横切ってゆく子供のように無邪気な心で 単純なものごとに微笑みかけるという、この幸せが、 ふたたび閉ざされたわれらの魂のなかで、 どうか末長く続きますように。刈られた麦の穂が風にそよぎ、 黄金色の大きな麦は彼女よりも丈がある。 麦は…

ヴァン・レルベルグ「輪舞」

あなたの丸々とした手をわたしの手に取らせて、 わたしの手にあなたの薔薇色の丸々とした手を。さあロンドを踊りましょう。わたしの唇は丸い、わたしの胸も丸い、 酒盃や葡萄の房のように。さらさらした金のような長い髪に わたしは薔薇の花冠を載せた。あな…

ヴァン・レルベルグ「間奏曲」

また思いみるがよい、 薄青色の目をした晴朗なる魂よ、 ここにはいかなる苦しみもなく、 すべては愛なのだ。 われらの境涯たるこの孤独には、 人間についてわれらを悩ます何物もない。 彼らのところに平和が舞い降りるに任せよ。 すでに夕べが降りてきた、す…

ヴァン・レルベルグ「願いの成就」

君がその光の手のうちに 疲れた頭を休めるとき、 君の祈りに応えて私の愛が、 願いの成就として現れますように。まだふるえている君の唇のうえで 言葉が途絶え、 金色の光に照らされた 薔薇の微笑みのうちに柔らぐとき、また君の両の目が光を放ち、 その目が…

ヴァン・レルベルグ「不安な女」

おまえが私を招いてくれる夢のほうへと、 私はいま道をたどりつつある。 手探りで進むしかないけれども、 私の魂はふるえ、私は立ちすくむ。私は青い帳の下をゆき、 頭上には薔薇の花が懸っている。 天使が待ってくれているのは知っている、 しかし私は目を…

ヴァン・レルベルグ「福の神」

これはこれ福の神様、音もたてずに入らっしゃる。 家ではみながお待ちかねじゃ。 卓上はいつも万全の備えで、 夜燈もあれば祝杯もある。 ああ、福の神様の歩みのなんとお美事なこと。 まるで旅する神様のようじゃ。 門口に薔薇の花を飾るがよいぞ、 神様の居…

ヴァン・レルベルグ「晴朗の時」

神がわれわれに遣わされたひとときが、 慎ましやかに、いわば翼をたたみ、 ゆったりと慎重な足取りで、また静かで和やかな心もちで、 この変転常なき日々に、われわれの傍らを通り過ぎていった。 それは心貧しき教妹たちであった。彼女らはしずしずと進み、 …

ヴァン・レルベルグ「忘却」

何にでも驚く単純な魂よ、 今朝、ある妖精の手が、 この沈黙と認可との賜物を、 一輪の花のように、おまえの額の上に置く。この笏には主張もなければ、重さもない。 それは軽い金剛石でできている。 時のささやきは静まって、 おまえの子供らしい夢のなかで…

ヴァン・レルベルグ「未来の歌」

シェヘラザードよ、そちのみごとな話を続けてくれい。 すでに鳥はさえずり、夜明けがやってきた、 わしらが明日と呼んでおったその日が。曙に薔薇の花が目をさます。 いまひと日を生き永らえんことを思え、 わしが生きておるのはそちのみごとな話を聞かんが…

ヴァン・レルベルグ「我はわが愛する者につき わが愛する者はわれにつく」

あなたの目が私の目を覗き込むと、 私のすべては目のなかにある。あなたの唇が私の唇をほころばせると、 私の愛は私の唇そのものだ。あなたが私の髪をなでると、 私はすっかり髪のなかにいる。あなたが私の胸元にふれると、 私は突然の炎のように萌え立つ。…

ヴァン・レルベルグ「葡萄や芽(めざ)しし」

木苺の実のなる季節に人々は歌った、 私のたわんだ唇を、 夏の雨のように暖かい 私の長い髪を。葡萄の実のなる季節に人々は歌った、 私の半ば閉じた光る目を、 秋の空のように 物憂く曇った私の目を。私には味わいのすべて、輝きのすべてがある。 私は蔓植物…

ヴァン・レルベルグ「没薬の汁わが指よりながれて」

私のおののきにあなたの手を延ばして下さい。 それは私のモヘアの衣装、 それは没薬の、香油の、 安息香の衣装。 私の全身はこれで塗られ、 私の腰はこれにて撓んだ。さらに私を覆うものといえば 金色の毛髪だ。 それは太陽、私はその光のなかにやって来た、…

ヴァン・レルベルグ「印(おしで)のごとく」

あなたの心の上にこの身を委ねよう、 海の上の春のように。 不毛な海の平原では、 急速な風のせいで、 光の花以外の花は 育たないのだ。あなたの心の上にこの身を委ねよう、 海の上の鳥のように。 波と空間との永遠のたゆたいのなかで、 鳥はその疲れた翅を …

ヴァン・レルベルグ「面を覆へる者の如くして」

なぜおまえは古ぼけた夢想ともども 過去から立ち現れるのか? 私がまだ存在しない前におまえが夢みたことが、 いったい私に何の関わりがあるというのか?死んだ者たちの灰をかき起してはいけない。私の若かったころの歳月、 それはいまの私の思考には、 自分…

ヴァン・レルベルグ「その口の接吻をもて我にくちつけせんことを」

彼女は帯の結び目を解いて、素裸になると、 ふるえながら腕をひろげ、やってきた者を迎え入れた。その手は大気に触れ、静寂に触れ、夜に触れた。 そして、彼女のくらんだ目に陽の光がきらめいた。彼女の神のごとき接吻はおずおずとふるえ、 それはあたかも口…

ヴァン・レルベルグ「わが首(こうべ)には露満ち」

雪の降るなか、火を灯して、 楽園の星の遊びをした。 私の体は星ですっかり覆われる。 明るい髪の毛の上で光るものもある。 目の中に飛び込んでくるのもある。 唇や胸の上で 溶けてしまうのもある。 手のひらの中で 消えてしまうのもある。 私の全身は星でき…

ヴァン・レルベルグ「尋ねたれども得ず」

おのれの心の中に眠るがごとく 安らかに彼女は眠っている、 あたりはしんと静まり返っている。 彼女がいま見ている夢を窺い知るわけにはいかないけれども、 それは愛神アモルが遣わしただれかの夢で、 彼女に近づき、指で彼女の目に触れて、彼女をうつつに呼…

ヴァン・レルベルグ「愛の起るときまでは喚び起すなかれ」

この子が目を覚ましたとき、どんな歌を歌ってあげたらいいだろう? ごらんなさい、目をとじて 微笑みながら夢みている様子を。 この子の考えに、どんな声で接してあげたらいいのか?この子を取り巻いているものを、 どんな愛の名前で呼んだらいいのか? この…

ヴァン・レルベルグ「われは睡りたれどもわが心は醒めゐたり」

私の胸の上で私の手が眠っている、 遊びと錘竿に疲れた私の白い手、 懐かしい恋人のような私の手は、 まるで水の底でまどろんでいるかのよう。つらい、やくたいもない苦役から遠く離れて、 この私の美の玉座に、 楚々たる女王然と居座って、 私の手は王国の…

ヴァン・レルベルグ「花々をもてわれを支えよ」

まぶたを閉じたまま押さえていてくれる包帯が 私にはうれしい。アモルよ、 その重みは弱々しい薔薇の上に落ちかかる 甘い陽光の重荷のようだ。私が前へ進むと、ふしぎなことに! 水の上を歩いているような気がする。 どこを歩いても重すぎる私の足が、 まる…

ヴァン・レルベルグ「絵姿」

ある日のこと、少年の美しい本に描かれた、 きらびやかな衣装をまとった挿絵たちが、 金剛石の宮殿に棲む妖精のように 本から抜け出てきた。そのうちの一枚が、 眠りこけている少年の肩をたたいた。 それは、麦穂のように背が高い、 金髪の、言葉なき絵姿だ…

ヴァン・レルベルグ「告知」

この波乱含みの夜、やがて訪れる遠い一日の凛とした青色の頂は、 すでに嚠喨たる喇叭の聖歌で黄金色に染められているが、 今宵、ある声に招き寄せられた人々、 夢想家として運命をたどる人々のあいだを、 闇に乗じて馬を駆る、 ひとりの女の騎り手がある、 …

ヴァン・レルベルグ「見せかけ」

わが胸の夜な夜なに、 私の居場所である葉叢と閉じた花々とのあわいへ、 あなたの唇が求めるのは何? 私の見せる蜃気楼に喉を涸らした子供よ。私が眠るとき、不毛で金色の、 どんなふしぎな深みから、 私の魂が、無益な輝きとなって、 あなたの口の奥で目を…