人もすなる象徴詩といふものを

われもしてみむとてするなり

ネルヴァル頌


海の彼方に咲くという
トレミエールの薔薇を見たのは
ボン・ジェラールただ一人

イスパハンの薔薇が薔薇でないのと同様
トレミエールの薔薇も薔薇ではない
薔薇でないものを薔薇と呼ぶ
そこにジェラールの偉さがあるんじゃないか

万巻の書を読破しながら
一冊の本ももたぬ浮浪者ぐらし

隠秘哲学の奥義を極める一方で
魚河岸の女房ほどの分別もなかった男

象徴派がこの世に現れるに先立って
すでに最高の象徴詩を書き了えていた男

ジェラール・ド・ネルヴァル
私はあなたに心からなる尊敬と
嫉妬に近い愛情とを抱いている

神は盲点に宿りたもう


記憶喪失
いまに始まったことじゃない
子供のころにもあったことだ
最初に乳を飲んだときのこと
最初に立って歩いたときのこと
最初に親と話をしたときのこと
すべて忘れているじゃないか
いちばん記念すべきことを
ことごとく忘れているじゃないか

それでいい
なぜならいちばん大切なことは万人共通だから
それはことさら見なくてもいいのだから
そして
もし神がいるとしたらそこだ
その見えないところだ
そしてその神もまた盲目であろう

淫佚なる庭園


私は淫らの園の庭師である。

そこでは蛇の愛撫がねっとりと絡みあい、
木苺の実の欲望がこぼれ落ちる。
池に浮ぶ蓮華の花は
女神の裸身と妍を競うかのよう。

節くれだった根茎が地を匐い、
茸は得たりや応と胞子を放つ。
蘭(ラニ)の香は月に流し目を送り、
韮(ニラ)を相手に恋の鞘当てに余念がない。

淫らの園のファウナやフローラ、
父娘戯け(オヤコタワケ)、兄妹戯け(キョウダイタワケ)はお手のもの、
下根の品性そのままに、
常住坐臥造次顛沛、
ここを先途と婚(マ)きて婚け。

梵鐘


除夜の鐘の音が森々と響いてくる
「おまえは何ものにもなれないだろう」
そんなことはわかっているさ

ただ物心のついたころに聞いた
晦日の夜のゆかしい薄墨色の音を
もう一度この耳で聞ければ
それだけで私にはじゅうぶんさ