人もすなる象徴詩といふものを

われもしてみむとてするなり

紋切型ガーリッシュ


私の愛する女たちよ、
可愛らしくしていたまえ。
ぞんざいな口はきかずに、
ただこう繰り返していたまえ。

──よくつてよ。
──知らないわ。
──あたしもう、可厭(イヤ)ンなつちまふ。

二十一世紀に生きる男たちに
背伸びをして張り合う必要はない。
きみたちは十九世紀に生きていればよい、
すべてが美しかった十九世紀に。

──よくつてよ。
──知らないわ。
──あたしもう、可厭ンなつちまふ。

夕べの祈り


嘆き悲しむ暇もあらばこそ
彼方からの声は、つねにすでに
私を招き、私を立たせ、
どこまでも歩ませようとする。

それは雪山で男たちが聞くという
幻の歌声でもあろうか。
寒さと疲れとで萎え果てた身に
効験あらたかな希望の灯火(トモシビ)。

しかしなぜこうなのか、
こうも同じ光景なのか、
神代の昔から繰り返され、
この世の終りまで繰り返されるもの。

それこそは自然界の掟であり、
人間失墜の悲歌でもある。
獣の嗤(ワライ)、草木の咲(エマイ)、
小市民の痴愚と笑わば笑え。

ひとり枯座する部屋の内、
ほどなく点す蝋燭に
うつろう影のありやなしや──
宵闇はもう、ついそこまで来ている。

苦悶の象徴


新たなる事象が 旧い記憶を喚び覚まし
記憶は記憶を呼んで千々にみだれ
やがては「苦悶」という字に象られてゆく

いったん文字の形をとったが最後
こころのうちに執拗くはびこり
いかに努力してもかき消せないもの

時だけが 文字を解体してくれる
腐蝕がすすみ 徐々に形が崩れ 断片化し
やがて記憶の底へと沈んでゆく

だがそれもつかの間
新たなる局面にぶつかるたびに
澱のような一群はふたたび上層へと舞い上がる

舞い上がり 渦をまき 寄り集まって 
黒々とした輪郭を次第に鮮明にしつつ
象るところの文字はつねに「苦悶」のみ