新たなる事象が 旧い記憶を喚び覚まし
記憶は記憶を呼んで千々にみだれ
やがては「苦悶」という字に象られてゆく
いったん文字の形をとったが最後
こころのうちに執拗くはびこり
いかに努力してもかき消せないもの
時だけが 文字を解体してくれる
腐蝕がすすみ 徐々に形が崩れ 断片化し
やがて記憶の底へと沈んでゆく
だがそれもつかの間
新たなる局面にぶつかるたびに
澱のような一群はふたたび上層へと舞い上がる
舞い上がり 渦をまき 寄り集まって
黒々とした輪郭を次第に鮮明にしつつ
象るところの文字はつねに「苦悶」のみ