人もすなる象徴詩といふものを

われもしてみむとてするなり

異化


はじめて会ったときのことを、きみは覚えているかい。
(覚えていたから、どうしたというの)
きみはぴったりとした白い服を着て、殊勝に顔をあからめていた。
袖をまくった腕は白くつやつやとして、その爪には噛んだあとが残っていた。
それを見て、おれがなにを思ったか、きみにはわかるかい。
(いいえ、ちっとも)

きみは覚えているかい、ふたりで一仕事了えたあと
疲れてぐったりと床にねそべったときのことを。
(疲れていたのは、覚えているわ)
そのときおれはきみが息をはずませるのを、胸が上下にうごくのを
やさしい気持でながめていた、やさしい、みだらな気持で。
(やはりそうなのね、いやらしいひと)

そのときから おれはきみが好きになったのかもしれない。
あれからふたりはずっといっしょだった、
少なくともおれの記憶するかぎりでは。
(こっちにその気がないのに、ご苦労様なこと)

その鮮明な記憶がにわかに曇ったときのことを
きみはたぶん知らないだろう、気づかなかっただろう。
そしてそれがあの忌わしい悪夢へとつづくものであったことを。
(もちろん知らないわ、だって私のせいじゃないもの)

その悪夢はいまでもつづいている。
(はやく目をさましなさいな)

埋めた記憶


私が用を足すのはきまって地下の共同便所
なぜならその下に父の遺骨が埋まっているから
たしかにこの手で父の遺骸を埋めた
同時にその記憶までも埋めてしまった

床がびしょびしょ濡れた不快な便所
壁には忌わしい虫がかさこそ音を立てている
私は用を足しながら床に目をやる
そこの亀裂から白骨が見えやしないかと冷や冷やしながら

いつだったか私はすっかり遺骨を掘り出した
同時に埋めてあった記憶が戻ってきた
取り返しのつかぬことをしてしまったという記憶が

用を足し了えた私はすべるように便所を出る
そしてだれにも見られなかったことを確認して
はじめてほっと安堵の吐息をもらすのだ

煉獄の魂


デジャヴュは浅薄だが
ジャメヴュは奥深い

見慣れたものが形を失うまで見つめよ
既知を未知に還元せよ

未知から既知への道はたやすい
おまえはより厳しい道
既知から未知への道をたどれ

天国はデジャヴュでいっぱい
地獄はジャメヴュでいっぱい

おまえは煉獄の魂として
天国から地獄へと昇ってゆけ