人もすなる象徴詩といふものを

われもしてみむとてするなり

異化


はじめて会ったときのことを、きみは覚えているかい。
(覚えていたから、どうしたというの)
きみはぴったりとした白い服を着て、殊勝に顔をあからめていた。
袖をまくった腕は白くつやつやとして、その爪には噛んだあとが残っていた。
それを見て、おれがなにを思ったか、きみにはわかるかい。
(いいえ、ちっとも)

きみは覚えているかい、ふたりで一仕事了えたあと
疲れてぐったりと床にねそべったときのことを。
(疲れていたのは、覚えているわ)
そのときおれはきみが息をはずませるのを、胸が上下にうごくのを
やさしい気持でながめていた、やさしい、みだらな気持で。
(やはりそうなのね、いやらしいひと)

そのときから おれはきみが好きになったのかもしれない。
あれからふたりはずっといっしょだった、
少なくともおれの記憶するかぎりでは。
(こっちにその気がないのに、ご苦労様なこと)

その鮮明な記憶がにわかに曇ったときのことを
きみはたぶん知らないだろう、気づかなかっただろう。
そしてそれがあの忌わしい悪夢へとつづくものであったことを。
(もちろん知らないわ、だって私のせいじゃないもの)

その悪夢はいまでもつづいている。
(はやく目をさましなさいな)