ヴァン・レルベルグ「蜃気楼」
あのさざめきは水のどよもしでもなければ、
葦辺をわたる風の羽音でもない。
それは夢想によって虹色に輝くひとつの魂、
その口がたわむれに発する声音はさざ波のごとく、
そよ風は月ときらめき、
歌とかがよう。
いかなる思考も、
その頭を取り巻く、
淡い藍玉の青色の環を超えることはない。
それは一箇の妖精だ。定かならぬ波の
広大なざわめきが消えてゆく岸辺の、
雲母が嵌め込まれた洞窟に、
魅入られたような姿勢で、
かれは朝まで座っている。
光の束のように目の上に落ちかかる
ブロンドの睫毛をすかして、
かれは世界の影像がたわむれるさまを
鏡のうちに眺めやる。
かれは申し分のない幸福の達成とか、
水や光や花のもつ優美さをもとにして、
深々とした官能を産み出すのだ。
かれの喜びは単純なものからできている、
少しの砂や、薔薇色の貝殻や、
手のひらに乗せた真珠など。
なぜなら、はるか彼方の笑いの反映ひとつから、
この魂ほど巧みに、
あの甘美で、壮麗で、蒼古たる東邦を、
天上の夢のうちに現出させるものはないのだから。
そこでは反映は焔と化し、
光は転じて歌となる。