人もすなる象徴詩といふものを

われもしてみむとてするなり

愚人に与う


翌日のおれが
前日のおまえに物申す。
おれがいま、どれほどいやな気持でいるか
おまえはわかっているのか?

おまえは一日を酒なしで暮した。
そのまま、酒なしで眠ることもできた。
しかし、なんたることだ、
寝る間際になって、おまえは酒を出し
あてまで用意しているじゃないか。

おかげで、翌日のおれは朝からひどい気分だよ。

もう一度いうが、おまえは酒なしで一日を暮した。
そのまま寝てしまうこともできた。
なのに、最後の土壇場になって、
なんでまた酒を飲むのだ?

そのときのおまえは、
酒なしで寝てしまうことに
なんともいえない味気なさを感じていたんだろう。

そしておまえの頭のなかには
酒を飲んで酔っ払う快感が
忘れようにも忘れられない誘惑が
じわじわと分泌されていたんだろう。

一日をしらふで過ごすことが、
とてつもないストレスになって
最後の最後に爆発する。
それを毎日繰り返しているのがおまえの生活だ。

おまえには力がある、能力がある。
酒を飲むことができる能力、
それと同時に、酒を飲まないことができる能力もあるはずだ。
あることをすることも、しないこともできる、
そこに自由があるんじゃないか。

おまえは欲望に屈することで、自由に生きることを放棄しているんだ。

だから、おれはおまえに言いたい。
自由であれ、と。
そのためにおまえにできること、
それはあらかじめ後悔することだ。

あらかじめ後悔せよ。
明日の自分に嘉される
今日の自分であれ。

こころのひかり


心から心へと
うつりゆく光は、
たえまなく
ひとすじに
心の断面を伝い、
万象を数珠繋ぎにする。

ときに屈折があって
心が鬱屈しても、
よどんだ流れを尻目に
悪魔がぬっと顔を出しても、
心のおもむくところ
導きの光はつねに私とともにある。

その光を見失わないようにしよう、
それこそが、カンブリア爆発の昔から
万象を貫いて流れるものなのだから。

音楽


リズムは遍在する、
自然にも、生活にも、
心にも、体にも、
過去にも、未来にも、
およそ生あるところ
リズムなくんばあるべからず。

歌は遍在する、
空を飛ぶもの、
地を這うもの、
水に棲むもの、
およそ生あるものににして
歌うたわざるものあるべからず。

見よ、
大地の窪み、海の深淵、
磯辺の潮騒、深山の森林、
太陽と雲、月と星影、
いたるところに音楽は
満ちては溢れ、
零れては落ちる。
われらもろ手をあげ、
落ちきたる音を抱かんとする。

供犠


太陽神に生贄を捧げる男が丘に登ってきた。
寄る年波に喉をぜいぜい鳴らし
足元あやしくよろぼいながら、
見ればどこかに傷を負っているのか、
衣の下から血がしたたり落ちている。

丘には木がまばらに生え、
小さい泉がさらさらと地を潤していた。

杖をたよりにここまで来たが、
男はすでに疲れ果てていた。
男はこれまで屠ってきた何人もの若者を思った。
そして自分にはもう神へ供物を捧げる力がないと悟った。

男はそのまま聖壇の上につっぷした。
そこは、男が数々の供犠を行った場所であった。
もうこうなってはわが身を神に捧げるしかない。
神は男の行為を嘉されるであろうか。
男はそんなことをぼんやりと考えた、
照りつける日射しにぎらぎら光る血だまりを見つめながら。