人もすなる象徴詩といふものを

われもしてみむとてするなり

生よ 驕るなかれ


われはミクロの幺微体
わが往くところ
つねに災殃(マガツビ)はびこれり

わが頼みとするところは衆にして
わが潜むところは万物の霊長なり

われは生の中の死
死の中の生
われかつて死なず
また生きず

取るにも足らぬ幺微体なれど
身は軽く けがれなし
われあえて物言わん
生よ 驕るなかれと

憂鬱


見はるかす落日の金色の光が
放射状に延び拡がり、舞い降りる。
そのまぶしい金粉に虹吐き
遠い昔のノスタルジア
夕闇が濃くなりまさるにつれ
深々としたメランコリアを大地にもたらす。

あゝ懐かしのメランコリア
ひたひたと押し寄せる遠景よ
おまえの黒く、冷たく、湿った手で
万象に薄墨色の屍衣をまとわせよ。

私はといえば、せめて軽やかな沓で
死せる都を闊歩したい。
踏みしめる甃石の硬さを
蹠にしかと感じていたい。

処世術


よきにつけ、あしきにつけ、
人はとどまることを知らぬ。
生とは流れである。
たとえ神であっても
それを押しとどめることはできない。

障碍に出会ったなら、
困難に陥ったなら、
それは神の警告と受け取るべし。
すみやかに流れを変えよう。
さもなくば行きつく先は破滅あるのみ。

呪詛を祝福に
暗黒を光明に
卑金属を貴金属に
転ずる術を心得ているものだけが
未来への参入を許されるのだ。

真昼の夜空


私は窓をあけて外を眺める。
空は真っ暗で、星が出ている。
しかし、これでも昼なのだ。
その証拠に太陽がみえる。
巨大な、眩しい光を放つ天体。
しかし青空はどこにもない。
朝焼けもなければ夕焼けもない。

どうしてこうなのか。
大気がなくなったからだ。
私を取り囲み、護ってくれていた
雰囲気が消え失せたからだ。
いまや私には青空はない。
あの懐かしい晴天の色はもう見えぬ。

しかし、これですべてが失われたわけではない。
私は急に嬉しくなってくる。
私の前には、宇宙そのものが無媒介的に広がっているのだから。

愚人に与う


翌日のおれが
前日のおまえに物申す。
おれがいま、どれほどいやな気持でいるか
おまえはわかっているのか?

おまえは一日を酒なしで暮した。
そのまま、酒なしで眠ることもできた。
しかし、なんたることだ、
寝る間際になって、おまえは酒を出し
あてまで用意しているじゃないか。

おかげで、翌日のおれは朝からひどい気分だよ。

もう一度いうが、おまえは酒なしで一日を暮した。
そのまま寝てしまうこともできた。
なのに、最後の土壇場になって、
なんでまた酒を飲むのだ?

そのときのおまえは、
酒なしで寝てしまうことに
なんともいえない味気なさを感じていたんだろう。

そしておまえの頭のなかには
酒を飲んで酔っ払う快感が
忘れようにも忘れられない誘惑が
じわじわと分泌されていたんだろう。

一日をしらふで過ごすことが、
とてつもないストレスになって
最後の最後に爆発する。
それを毎日繰り返しているのがおまえの生活だ。

おまえには力がある、能力がある。
酒を飲むことができる能力、
それと同時に、酒を飲まないことができる能力もあるはずだ。
あることをすることも、しないこともできる、
そこに自由があるんじゃないか。

おまえは欲望に屈することで、自由に生きることを放棄しているんだ。

だから、おれはおまえに言いたい。
自由であれ、と。
そのためにおまえにできること、
それはあらかじめ後悔することだ。

あらかじめ後悔せよ。
明日の自分に嘉される
今日の自分であれ。