人もすなる象徴詩といふものを

われもしてみむとてするなり

ヴァン・レルベルグ「変容」

夕べの祈りが済み、
すべてがまるで夢のなかへと消えゆき、
世界は金色の流体のうちに眠る。

目を伏せて美しい夢に耽りながら、
聖母は天使たちに囲まれて
静かに洞窟に座っている。
「神の子」はすやすやと眠っている。

空はまるで薔薇の花々が
咲きみだれているかのよう、
海には大気が真珠母色のさざなみを立てて、
ブロンドの大波をかすめてゆく。

このとき、深々とした森から
そよ風が吹いてきて、
燃えるような花々の香りが立ち昇ってくる。
木の葉はそよぎ、鳥は歌う。
暗くなった海はきらきらと輝き、
没薬と竜涎香の香りが
夕暮れに満ちてくる。

聖母はうっすらと目を開く、
その目には闇と光とが揺れている。
彼女の唇はひっそりとある名をつぶやく、
漠とした微笑みが涙のあとを消してゆく。

聖母の白衣は次第に透けて薄くなる、
それはまるで彼女の肌の上で花がしぼんでゆくかのよう、
その肌の上を波打つ麦の穂のように
炎が駆け抜けてゆく。
彼女の重い髪は解かれて
薔薇の花々とともに黄褐色に流れ落ち、
肩や腰にまとわりつく。
彼女の乳房はふるえながら盛り上がる。
愛神アモルが目をさます。

お供の天使たちは翼を畳んで
起ち上がる。リュートヴィオルにのせた
その優しい言葉は、
かれらの口の上で途絶えてしまう。
かれらは帯を解き、
金繍のついた衣の紐をゆるめると、
三たりが三たり素裸のまま、
いにしえの麗しき美の三女神の姿に立ち返る。
三たりの女神はいままさに終らんとする日のなかで
星をちりばめた腕を延ばす。
そして彼女らのまなざしは、
その祈りから海のほうへと逸れてゆく。

風の生んだ真珠母色の貝殻の上、
浪の華、神々の夢のなかで、
海の星であるヴィーナス*1が、
光に包まれて生れ、すっくと起ち上がる。

*1:ヴィーナスは金星すなわち宵の明星の異名