人もすなる象徴詩といふものを

われもしてみむとてするなり

ヴァン・レルベルグ「曙光」

魔法の森は
その木の葉の翼をすっかりたたんだ。
浄められた夜
厳かな静けさが
この森にひっそりと憩い、まどろんでいる。

くらがりのなか、
最後の枝が目に見えない水の上に
枝を延ばすあたりに、
ふしぎな地上の主である
黒い服を着た少年が、
光の花を手にして
しずかに現れる。
生命の小径づたいに、
ふるえる手で摘まれた、
しなやかでかぐわしい花を、
少年はその熱い唇にしばらく添わせていたが、
やがて身をかがめると、夜陰に浮かぶ水の上にその花を投げ落とす。

遠く落ちゆく花に応えを返す声はない。
いかなる息吹も、息遣いも、
物音も、少年のところにまで昇ってこない。
それはいつに変らぬ夜であり、
森や暗い水面を永遠の闇が包みこんでいる。
けれども彼は耳をすます。
ときおり、
甘い歌うような声が、
これら眠っている木立へ立ち昇ってくるような気がする、これまで耳にしたことのないような声が。

とはいうものの! いまのところすべての声は息をひそめている。
しかしこともなげな、無垢なる魂、
運命に見守られた
自由な若い神、
運命の微笑みを思念に受け、
嘆きも悔いも知らぬ少年は、
自分の前に広大な世界と永遠の生命とが拡がっていて、
そこには他の花々が咲き誇っているのを知っているので、
遊び戯れつつ森のくらがりへ入ってゆく。

明日ともなれば、
かの低いところ、彼方にまどろむその深みに、
夜明けがその神々しい息吹とともに、
ひっそりと澄んだ空の高みから、
青空と鳥と雲とをこき混ぜた蜃気楼となって落ちてくるだろう。
その低いところへ、ぼんやりとした眠りのなかの夢のように
一輪の光の花が落ちていった、
空をきって水のなかへ、
その薫りと裸形の美とをまとって。

花が落ちてくると、
星を散らした大きな波が、
唇のように、ふるえて白んだ夜のうちに目をさます。
波は懐を拡げて花が近づいてくるのを迎える。
そして不思議なことに、
その花をめぐって
波はそれからそれへと
夜のうちにささやきを交わし、
その口や翼を拡げて
昇ったり下ったりしながら伝播し進展し、
虚空に拡がっては光背となり、
千の花冠をもつ薔薇となり、
やがて広大無辺の夜明けとなる。

子供よ、ブロンドの髪に
緑の桃金嬢と月桂樹とを絡ませて、
こともなげに大地を行き、歌を歌う少年よ、
おまえのかわいい口から立ち昇る
このつつましやかな夢にこそ、
恩寵の時は宿るのだ。
大いなる孤独と夜とはおののいた。
おまえの浄らかな言葉が無限をかき乱したのだ。
夜明けはおまえの吐息で花のように色づいている。
白鳥の群は身をふるわせながら虚空に目をさます。