人もすなる象徴詩といふものを

われもしてみむとてするなり

2021-01-01から1年間の記事一覧

魑魅魍魎の歌

魑よ、魅よ、魍よ、魎よ、 どんなに珍奇な植物よりも、 どんなに綺麗な動物よりも、 おまえたちのほうが私は好きだ。 あるとしもないあやかしよ、 ひとのえ知らぬおよずれよ。魑、火の娘、樹から生まれたドリアッド、 髪をなびかせ山野を跋渉し、 火に棲む蜥…

黄昏

旅先で迎える暮方には つねに人の心をかき乱す何かがある。私は思い出す。 きみと二人で、いや、 われわれのグループで迎えたあの一泊移住の夕べ、 あのとき私は確かに人生の高潮にあった。 親しい仲間と、愛する友がいるとき 一日の終りはなんと美しいこと…

踊る亡霊

セックスアピールの亡霊が ありとしもない格好で 衆人環視の昼日中 街並をふらふらとさまよってる女どもは眉をひそめ 怪訝な顔でじろりと睨み 男どもは目を伏せて 黙ってその場をやりすごす世間の目などどこ吹く風と 亡霊さんは踊りだす 下手は下手でも味が…

彩絵硝子の窓の向こうに 女の白い手がすこし開いた窓の向うに ほのかに見える 白い小さな手が私をまねく月影にけぶるその館は 澱んだ沼の瘴気にほだされて すでに半分方姿を消しているグリザイユから浮び上った女の手が 私をその館にまねくさて今宵の演し物…

肉と女体

女に三種あり、 鶏と、豚と、牛と。羽をむしった鶏のような女がいる。 脂ののった豚のような女がいる。 固太りの牛のような女がいる。うわべはどうなと飾っていても、 身ぐるみ剥いでとくと御覧じろ。肉の見地から眺めたとき 女には三種しかない、 鶏か、豚…

サウダージ

ほのじろくおぼめくものに心をよせつつ 乙女らは日暮れの小径をいそぐ。ひよわの少年は手にもった光の花を力として 乙女らと肩を並べてどこまでも歩いて行こうと心に誓う。しかるに何の痛棒ぞ、その場で少年をひたと撃つものあり、 うずくまる少年をよそに、…

COINCIDENTIA OPPOSITORUM

殺す 集める 耕す それが男だます 飾る 紡ぐ それが女男と女とは互いに対蹠人 何から何まで正反対なのだけれどもこの世は男女を焦点とする楕円 離れて行けば楕円が広がる 歩み寄れば円に近づくまどかなるものを実現するために 相反するものの一致に努めよう

わが快楽

俗塵に塗れるはわがこよなき愉しみ さあ如何に思召す したり顔した貴顕紳士の殿ばらよ 諸君の目には布衣匹夫とも映ろう私が よしのずいから覗くのは いづくんぞ知らん 壺中の天だしかしそれもそう長くはつづくまい 私にはべつの楽しみが待っている眠りの底へ…

植物化石

蘆木(ロボク)、鱗木(リンボク)、封印木(フウインボク)と唱えつつ、 ゆくりなくも太古の神樹を想う。宇宙の霊樹ユグドラシル、 蛇の纏いつく善悪の樹、 天使に護られた生命の樹。生命は海と溶け合う太陽から生れ、 繁茂する樹々によって養われた。 太陽と海とは化してわ…

小さな願い

大好きな人なのに おまえに会うのが私はこわいおまえの前であらわになる 赤裸の心がおぞましいいつも若やいだおまえの前で わが身の老いが恥ずかしい大好きな人よ 私を私以外のものに変えてください

雨の街

街路をひたひたと濡らす雨、 小さくさざなみ立つ水の流れに あやうい調和を加えながら 灰白色の街は幻のように眼前にあらわれる。これが私の愛したあの街だろうか? そんな思いを無に帰するかのように 街はどこまでもよそよそしく あるがままの姿を私に示す…

ネルヴァル頌

海の彼方に咲くという トレミエールの薔薇を見たのは ボン・ジェラールただ一人イスパハンの薔薇が薔薇でないのと同様 トレミエールの薔薇も薔薇ではない 薔薇でないものを薔薇と呼ぶ そこにジェラールの偉さがあるんじゃないか万巻の書を読破しながら 一冊…

ひとりごと

さもあらむ さもあらむとわれ つぶやきつつ またたぐりてみむ きしかたのあやまちを ゆくすゑのこころぼそさを さもあらむ さもあらむとのみ ひとりごちつつ

神は盲点に宿りたもう

記憶喪失 いまに始まったことじゃない 子供のころにもあったことだ 最初に乳を飲んだときのこと 最初に立って歩いたときのこと 最初に親と話をしたときのこと すべて忘れているじゃないか いちばん記念すべきことを ことごとく忘れているじゃないかそれでい…

淫佚なる庭園

私は淫らの園の庭師である。そこでは蛇の愛撫がねっとりと絡みあい、 木苺の実の欲望がこぼれ落ちる。 池に浮ぶ蓮華の花は 女神の裸身と妍を競うかのよう。節くれだった根茎が地を匐い、 茸は得たりや応と胞子を放つ。 蘭(ラニ)の香は月に流し目を送り、 韮(ニラ…