人もすなる象徴詩といふものを

われもしてみむとてするなり

夕べの祈り

嘆き悲しむ暇もあらばこそ 彼方からの声は、つねにすでに 私を招き、私を立たせ、 どこまでも歩ませようとする。それは雪山で男たちが聞くという 幻の歌声でもあろうか。 寒さと疲れとで萎え果てた身に 効験あらたかな希望の灯火(トモシビ)。しかしなぜこうなの…

苦悶の象徴

新たなる事象が 旧い記憶を喚び覚まし 記憶は記憶を呼んで千々にみだれ やがては「苦悶」という字に象られてゆくいったん文字の形をとったが最後 こころのうちに執拗くはびこり いかに努力してもかき消せないもの時だけが 文字を解体してくれる 腐蝕がすすみ…

商人と悪魔と

賤賈と書いて「あきんど」と訓む いやはや 何たるざまだ 先祖代々従事しきたったなりわいが 職業カーストの最下位に位置するとはね その事実をとくと思いみよ賤賈の代表といえば ヴェニスの商人ことシャイロックだろう 思えばシェイクスピアも罪なことをした…

そぞろあるき

草ぼうぼうの荒地を横切ってゆく修道女のように 私たちが隊伍を組んで歩いたのはいつのことだったか? たしかにそんなことがあったのだ。 いま思えば夢のようだが。夢の中でのように、荒地を歩く私たちを スナップショットに撮ってくれた写真屋さんは その後…

妄誕

男の背中は広いもの、 そう思いこんでいた子供のころの私。 それだから男の背後に回りこんでみたことはなかった。 広いにきまっている男の背中なんかに興味はなかった。ところで私の愛した男たちは みんなガリガリに痩せていた。 その痩せ男たちの背中も広い…

エンテレケイア I

泥に生れた草木は 花を咲かせることもなく 生い立ったそのままの姿で 活動を永遠に停止したそれは枯死ではない 生成の極みにおいて 存在を無と化し 形相のみをこの世にとどめたといおうか泥から生い出た草木は 暗い出自を忘じ果て とわに円現の相をたたえつつ…

鳥の声

血を吐いて死んだ凶鳥は 生きているときもつねに血を吐いていた 耳をすませば ゲエッ ゲエッという 音さえもきこえたはずなのだ ゲエッ ゲエッときたない声でなきながら とめどもなく血を吐くまがつどり そのこえに しらずしらず おれの心はとうから破れてい…

雲が動く、 山が動く。君は山が動くのを見たことがあるか。山がなんで動くもんかね、 そう人は言うだろう。しかしおよそ山たるもの、動かずんばあるべからず。君はいつか見るだろう、 山が何の奇もなく動くさまを。雲が動く、 山が動く。

Anywhere out of the world

この世の外なら どこへでも 今でなければ いつにでも 人でなければ 何にでも この日 この身を 釈き放て

あらわれ

まっかな唇に薄い布をあてがって 私をやさしいまなざしで見つめるこころ弱くも悲哀に溺れる私に 不意にあらわれた仄かなまぼろしみよ子さんと名前を呼べばすぐに会えそうな気がするのに あなたと私とのあいだには どうにもならない時空の隔たりが横たわって…

のらくら者のらくちん境

温かいもの 親しげなものを求めて こころの内部(オク)へ ひたすら内部(オク)へと もぐりこんでゆく ひとつの意志この乳白色の絶対境 ふうわりと柔かい砦に立てこもって 思うさま手足をのばし のんべんだらりとする心地よさのらくら者よ おまえの王国がそこにある…

羞明

明るさが私はこわい、 白さは私をおびやかす、 なぜならあの黒い星がよく見えるから。消えてはまた現れる あの気まぐれな星は、 流星か、恒星か、 はたまた小惑星か、 そもそも実在するものか、 それとも現象にすぎないのか、 吉祥か、凶兆か、 それはだれに…

生よ 驕るなかれ

われはミクロの幺微体 わが往くところ つねに災殃(マガツビ)はびこれりわが頼みとするところは衆にして わが潜むところは万物の霊長なりわれは生の中の死 死の中の生 われかつて死なず また生きず取るにも足らぬ幺微体なれど 身は軽く けがれなし われあえて物…

憂鬱

見はるかす落日の金色の光が 放射状に延び拡がり、舞い降りる。 そのまぶしい金粉に虹吐き 遠い昔のノスタルジアは 夕闇が濃くなりまさるにつれ 深々としたメランコリアを大地にもたらす。あゝ懐かしのメランコリアよ ひたひたと押し寄せる遠景よ おまえの黒…

処世術

よきにつけ、あしきにつけ、 人はとどまることを知らぬ。 生とは流れである。 たとえ神であっても それを押しとどめることはできない。障碍に出会ったなら、 困難に陥ったなら、 それは神の警告と受け取るべし。 すみやかに流れを変えよう。 さもなくば行き…

真昼の夜空

私は窓をあけて外を眺める。 空は真っ暗で、星が出ている。 しかし、これでも昼なのだ。 その証拠に太陽がみえる。 巨大な、眩しい光を放つ天体。 しかし青空はどこにもない。 朝焼けもなければ夕焼けもない。どうしてこうなのか。 大気がなくなったからだ。…

愚人に与う

翌日のおれが 前日のおまえに物申す。 おれがいま、どれほどいやな気持でいるか おまえはわかっているのか?おまえは一日を酒なしで暮した。 そのまま、酒なしで眠ることもできた。 しかし、なんたることだ、 寝る間際になって、おまえは酒を出し あてまで用…

こころのひかり

心から心へと うつりゆく光は、 たえまなく ひとすじに 心の断面を伝い、 万象を数珠繋ぎにする。ときに屈折があって 心が鬱屈しても、 よどんだ流れを尻目に 悪魔がぬっと顔を出しても、 心のおもむくところ 導きの光はつねに私とともにある。その光を見失…

音楽

リズムは遍在する、 自然にも、生活にも、 心にも、体にも、 過去にも、未来にも、 およそ生あるところ リズムなくんばあるべからず。歌は遍在する、 空を飛ぶもの、 地を這うもの、 水に棲むもの、 およそ生あるものににして 歌うたわざるものあるべからず…

あやしき香

おゝ也香よ也香 くゆりかに立ちのぼり 沁みては通る おおどかに 乙女さび ほのかに乳(チ)と血をまじえたる その妖艶なるたたずまい

供犠

太陽神に生贄を捧げる男が丘に登ってきた。 寄る年波に喉をぜいぜい鳴らし 足元あやしくよろぼいながら、 見ればどこかに傷を負っているのか、 衣の下から血がしたたり落ちている。丘には木がまばらに生え、 小さい泉がさらさらと地を潤していた。杖をたより…

蜂の巣

こちたき時を刻む漏刻、 その絶えだえの響きが 有漏の身に沁みとおる。 梵鐘のように、 谺のように、 妙(タエ)にしみらにつきまとう。そのうねりは蜜蜂のうなりのごとく、 群をなしてあたりをおおい、 侵食を一面に繰り広げつつ いつしかそれを蜂の巣に変えて…

はじめに

同一IDでの三つめのブログ。やはり象徴詩というものをちゃんと理解するためには、自分でも作ってみないといけないのではないか、と思って、それ用のブログを用意することにした。もちろん、象徴詩のよい読み手は、書き手と同じくらいに「創作」することは、…